夢十夜と出会ったのは高校時代。
この第一夜は、初めて読んだときから一目惚れだった。
たった数ページの短編なのに、静かで美しくて、でも妙に刺さる。
教科書に載ってたのに、教材感はまるでない。
むしろ映画のワンシーンみたいに、心にスッと入ってきた。
それが今回、改めて読み返してみて…
やっぱり好きだなと思った。むしろ前よりもっと好きになった。
夢の中で「100年待ってて」と言い残して死んでいく女と、
その言葉を信じて、ひたすら墓のそばで待ち続ける男。
シンプルな行動の中に、
静かで、奥ゆかしくて、強烈なほど一途な愛情が詰まってる。
というわけで今回は、
焦げ団子が「夢十夜の中でも断トツで好き」と断言する第一夜を、
全力で味わい直してみた。
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「何があるのかざっくり見たい」という方は、先にこっちから眺めてもOK。
【あらすじ】たった数ページで心を奪う、百年越しの“夢”
ある夜、夢の中で女が死にかけていた。
「100年、私の墓のそばに座っていてくれたら、生き返るから」
そう言い残して、彼女は静かに息を引き取る。
男は約束どおり、毎日墓のそばに座った。
雨の日も、風の日も、春が過ぎて夏が来ても、ずっと――
何も言わず、何も求めず、ただそこに座り続けた。
人が何を言おうと関係ない。
「100年経ったら生き返る」――その言葉だけを信じて。
そしてちょうど100年目、朝日が昇ったその瞬間。
彼女の墓から、百合の花が一本、ひっそりと咲いた。
男はそれを、彼女が生まれ変わった姿だと思って、静かに涙をこぼす――
言葉少なに描かれた、静かすぎる愛に燃やされる
いやもう、物語が美しすぎる。
短編なのに、空気と情緒で心を持ってかれる。
夢十夜の中でもダントツで好きな一話だ。
まず何がいいって、「100年そばで待つ」っていう発想。
ふつう恋愛って、“どれだけ早く会えるか”、“どれだけ想いを伝えられるか”が大事にされがちだけど、
これは逆。
“ただひたすら、待つ”
何も求めず、見返りもなく、誰が何を言おうと信じて、待つ。
これぞジャパニーズ侘び寂びラブストーリー。
そして、墓を掘るシーン。
「真珠貝は大きな滑かな緑の鋭どい貝であった。
…柔らかい土を、上からそっと掛けた。
掛けるたびに真珠貝の裏に月の光が差した。」
この描写が、とにかく美しい。
掘る、って行為に対してここまで丁寧で静かな情緒をのせてくる文体。
月の光と真珠貝の反射がリンクして、幻想的で、死の描写なのにどこか温かい。
で、極めつけがラストのシーン。
「白い花弁に接吻した」
この“接吻”って表現がたまらん。
ハリウッド映画のラストみたいに予定調和でキスしてハイ終了、じゃない。
百年を超えて咲いた一輪の白百合。
その花に静かにキスを落とす。
この奥ゆかしさ、控えめなのに狂おしいほどの愛情表現。
これぞ日本的ロマン。
しかも彼はこのとき、まだ「100年が来た」と気づいていない。
「自分が百合から顔を離す拍子に思わず、遠い空を見たら、暁の星が一つ瞬いていた。
『百年はもう来ていたんだな』とこの時始めて気がついた。」
――これがエモすぎる。
「もう来てた」ことを、百合を通してじゃなく、「“空”を通して知る」ってのがまたいい。
時の流れと、愛の終着と、彼女との再会(かもしれない)の静けさが、
この一瞬にぜんぶ凝縮されてる。
夢という名のラブレター。漱石、あんた絶対モテただろ
それにしても、こんな夢見る?
100年待ち続けた先に、花になった彼女とキスするなんて…
発想がロマンチックすぎる。
てかさ、漱石、絶対モテただろ。
この夢一発で「先生って…深い…」って言わせられるやつやん。
でもそこにドヤ感がない。
情熱は熱いのに、表現は静か。
そこがまたたまらなく粋だ。
ちなみにこの第一夜、1908年に発表されたもので、
『夢十夜』はその年の夏目漱石の夢をもとにして書かれた連作短編と言われてる。
夢だって言ってるけど、
ここまで物語として完成されてて、描写も細やかで、読後の余韻まで緻密に設計されてるの、
もう夢というよりほぼ芸術作品。
たった数ページで、100年分の愛を描く。
それを「夢の中」というさりげない形で表現してしまう夏目漱石、
やっぱ化けもんだわ。
そして団子は、
いくばくもの消耗品のような恋より、
百年でも待ちたいと思えるたった一つの恋がしたい。
夢十夜 (立東舎 乙女の本棚)/夏目 漱石 (著), しきみ (著)
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