Xファイル第13話『海の彼方に』。
UFOも怪物も出てこないのに、なぜかやたらと記憶に残る、静かにヤバい回である。
父親の死、死刑囚の預言、そして信じる者と信じない者の逆転現象。
いつもならモルダーが突っ走って、スカリーが冷静に止めるはずなのに、今回はスカリーの方がぐらついてて、モルダーがむしろ現実主義者っぽいという珍しい構図。
焦げ団子ホラーとかSFというよりも、完全にヒューマンドラマ
この回だけ妙に文学っぽいのは、きっとスカリーの内面が一番深く描かれてるからだと思う。
スカリーと父親の関係を描いたXファイル前半の中でも屈指の名作。
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⚪︎👨💼 フォックス・モルダー
FBI捜査官。超常現象やUFOに強い関心を持つ「信じる者」。頭脳明晰で観察眼は鋭い。
⚪︎👩🔬 ダナ・スカリー
FBI捜査官。モルダーの相棒。医学の博士号を持ち、科学的なアプローチで事件に挑む「疑う者」。
⚪︎🧓 ウィリアム・スカリー
厳格で寡黙だけど、心の奥では娘を深く想っていた。その想いが“Beyond the Sea”にすべて詰まってる。
⚪︎👩 マーガレット・スカリー
夫の死を悲しみつつも、娘を思いやる優しい母。夫との思い出“Beyond the Sea”の話を語るシーンは、何気にキモ。
⚪︎💀 ルーサー・リー・ボッグス
過去に11人殺害したサイコパス…だが本当に霊視ができるのか?狂気と真実のはざまで、スカリーの心を揺さぶる。
⚪︎📂 Xファイル課
FBIの中で「超常現象事件」を扱う部署。組織内では冷遇されがち。
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Xファイル『第13話:海の彼方に(Beyond the Sea)』ネタバレあらすじ


幻の父と突然の訃報
スカリーは父ウィリアム、母マーガレットを自宅に招き、楽しい時間を過ごす。
その夜、2人が帰った後にうたた寝したスカリーは、目の前の椅子に父親の姿を見る。
ウィリアムは何かを語りかけているようだったが、聞き取れない。
電話の着信音で目を移し、再び椅子に目を向けると父の姿は消えていた。
電話は母からで、ウィリアムが心臓発作で死亡したという知らせだった。
誘拐事件と霊能力者ボッグス
ノースカロライナ州ローリーで、警官に変装した男が若いカップルを誘拐する事件が発生。
モルダーは連続誘拐犯による犯行と見立て、「数日以内に被害者は殺される」と推測する。
その頃、モルダーがかつて逮捕に関わった連続殺人犯ルーサー・リー・ボッグスが、「自分の霊能力で捜査に協力する」と申し出ていた。
ただし、死刑撤回が条件だった。
疑念と“父の幻影”
2人は刑務所のボッグスのもとを訪れる。
モルダーが誘拐事件に関連する“物”として渡したのは、実は彼自身のTシャツの切れ端だった。
ボッグスは霊視を始めるが、これは罠。モルダーは「こいつは嘘をついている」と判断する。
刑務所を後にする際、スカリーはボッグスの方をふと振り返り、再び父の幻影を見る。
幻影は、ウィリアムの葬式で流れた『ビヨンド・ザ・シー』を口ずさんでいた。
しかしスカリーはモルダーにはこのことを伝えなかった。
罠とヒント、そして倉庫の証拠
モルダーとスカリーは、偽の新聞記事を使ってボッグスを試す。
それに対してボッグスは動じず、代わりに曖昧なヒントを残す。
そのヒントを元に、スカリーは倉庫を捜索。カップルが一時的に監禁されていた証拠を発見する。
モルダーはさらに捜査官を引き連れ、別のボート小屋へ突入。
女性は救出されるが、モルダーは犯人に撃たれて重傷、男性は連れ去られてしまう。
ボッグスの提案と悪魔の警告
その後もボッグスは、「自分ならウィリアムと交信できる」とスカリーに話す。
さらに、「自分の死刑執行に立ち会ってくれたら、父のメッセージを伝える」と持ちかけてくる。
加えて、犯人の居場所に関する情報とともに、「悪魔を避けるように」と警告する。
スカリーはそのヒントを元に、ビール工場に突入し男性を救出。
犯人を追い詰めたが、ロゴに悪魔の絵が描かれている足場に逃げ込まれ、ボッグスの言葉を思い出してそこで止まる。
すると床が抜けて犯人は転落死した。
処刑、そして語られなかった言葉
ボッグスは死刑執行のため刑場へと向かう。スカリーの姿はそこにはなかった。
彼は道中で、自分が殺した者たちの霊を目撃し、彼の霊能力が本物だったことが明かされる。
その後、スカリーはモルダーの病室を訪ねる。モルダーは「なぜ父の言葉を聞かなかったのか」と尋ねる。
スカリーはこう答える。
「何も聞く必要はない。」
「親子だから。」
Xファイル『第13話:海の彼方に(Beyond the Sea)』感想・見どころ


スカリーの父が遺した“沈黙の幻”
今回の主役は、完全にスカリー。
父親を突然失い、科学では説明のつかない“幻”を目にする。
でも信じたくない。



いつもは冷静沈着な彼女が、心の奥で揺れてるのが見えてしまって、見てるこっちも苦しくなる。
ボッグスの魅力、団子的に語らせろ
ルーサー・リー・ボッグス。
名前からしてヤバい。見た目もヤバい。でもこいつ、「恐怖」だけで終わらせたらもったいない。
彼の演技、表情、語り口にはどこか「痛み」があった。
生きることを諦めきれない、どうしようもない人間の叫びみたいなものが、あの不気味な目の奥に見え隠れしてた。
彼の語るビジョンは、曖昧で、象徴的で、何を信じればいいのかわからない。



でもだからこそ、モルダーよりスカリーを揺さぶった。
「悪魔を避けろ」
「父の最期の言葉を伝えてやる」
こういう言葉が、全部信じたくなるギリギリのラインで響いてくるんだよな。
スカリーが父を亡くして、心が揺れているそのほんの隙間に滑り込んでくる存在。それがボッグス。
怖い。けど、誰よりも自分を“理解してるような気がする”奴。
だからこそ、怖くて、でも目が離せない。
演じたブラッド・ドゥリフの怪演、ヤバすぎる
彼の経歴は、
- 『チャッキー』の声優
- 『カッコーの巣の上で』のビリー役
- 演技賞総ナメ経験ありの狂気専門俳優
そんな彼を無理やりでも引っ張ってきた制作陣、天才。



そして演技、バケモン。
Xファイル史上記憶に残る犯人となった。
ビヨンド・ザ・シーに込められた、家族の記憶
題名であり曲名にもなっている『Beyond the Sea』。
父ウィリアムがキューバ戦争から帰ってきたとき、この曲を流しながらまっすぐマーガレット(スカリーの母)にプロポーズしたという回想エピソードが泣ける。
この曲は「海の向こう=死後の世界」でもあり、スカリーが父を見送る象徴として、エモすぎる演出になってる。
この曲は、単なる雰囲気BGMじゃない。ちゃんと設定上、
- スカリーの父がプロポーズのとき流した曲
- 彼の葬式で流れてた曲
という、物語の“始まり”と“終わり”をつなぐ象徴になってる。
最後の問いかけと、スカリーの答え
事件のあと、モルダーがスカリーに問いかける。
なぜ、ボッグスを通して父の言葉を聞かなかったんだ?
スカリーの答えは、たった一言。
親子だからわかるの。
霊能力なんていらない。
スカリーは、自分が父に愛されていたことを、自分自身の中で信じていた。それで十分だと思った。
制作背景:『海の彼方に』は、こうして“神回”になった
「スカリーを揺らしたい」脚本家の執念
この回の脚本は、モーガン&ウォンの名コンビ。
でも彼らがやりたかったのは宇宙人でも怪物でもなく、“スカリーの心を揺らす”ことだった。
シーズン序盤のスカリーって、モルダーに比べてちょっとガード固めの理論派って印象が強かった。
そこでモーガンたちは思った。
スカリーを揺らせ。葛藤させよう
制作陣は「怖さ」でも「事件性」でもなく、「スカリーが“信じないこと”を選ぶ物語」にした。
それがXファイルという番組全体にとっても、大きな意味を持ってる。
キャスティングは執念の産物
ボッグス役のブラッド・ドゥリフは、当初出演を断ったらしい。
でも制作陣が「絶対にこの人じゃないとダメ」って粘って、スケジュール調整までして引っ張ってきた。
その熱意が、この狂気じみた演技に全部乗ってた。
Xファイル『第13話:海の彼方に(Beyond the Sea)』まとめ
『海の彼方に』は、「信じるって、なんだろう」ということを、初めてスカリー自身が自分に問いかけた回だった気がする。
お父さんがいきなり死んで、その直前に幻を見ていつもは信じない側だったはずなのに、信じたい気持ちが出てきた。
でもとうとうボッグズを通して父の言葉を聞くことはなかった。
たとえ本物でも、聞くことを選択しなかったのはそれは、父のことを信じてなかったからじゃない。
信じていたからこそ、誰の言葉にも触れさせたくなかったのだと思う。
なぜなら、それは自分の中にある父の記憶への裏切りに感じたからだ。
「ボッグスを通して父の声を聞く」ことが、“父の愛を疑ってるみたいで嫌だった”、が正解かもしれない。
だから彼女は、“信じたくない”んじゃなくて、“自分で信じることを選んだ”。
そうやって自分の父との絆を、自分の中だけで完結させた。
言葉にならなかった思い出を大切にしまって、そっと飲み込んだスカリーの選択。
それが、あのラストの「娘だからわかる」にすべて詰まっていたのだと思う。
ボッグスが本物だったかどうかなんて、もうどうでもよかった。



たぶん、あの話でスカリーは一度だけ、”科学者じゃなく、娘”だったんだと思う。
これは日本的には「供養」「未練」「慰め」として表現されるけど、西洋的な個人主義×深い家族愛の文脈で見ると、“信頼と愛”の選択として見ることができる。
本当に素晴らしく文学的で大好きな回だ。
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