芥川龍之介『トロッコ』――はいはい、教科書で読まされた“あの地味な話”ね。
でも、大人になってから読み返すと「あれ、これ地味どころか人生そのものじゃん」ってゾワっとする。
一言で言うと、童心の終わりと大人の孤独をエグいくらいえぐってくる短編。
そんなほろ苦いノスタルジーを感じながら考察していこうと思う。
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トロッコ・一塊の土 (角川文庫)/芥川龍之介(著)
その他【芥川龍之介 全作品レビュー・まとめページ】はこちら
芥川龍之介『トロッコ』ってどんな話だっけ?
トロッコ――地味な話と見せかけて、わりとスリリングな童心サスペンスである。
主人公・良平は、工事現場のトロッコ押しに心惹かれた小学生男子。
大人たちの真似をしてみたい、ちょっと背伸びしたい。そんなノリでトロッコを押してみたら――
大人の土工たちは、仕事終わったらサッサと撤収。
「少年の帰り道?知るかそんなもん」ってテンションで、良平だけポイ。
「あれ?帰り道、誰も送ってくれなくね?」という地獄の放置プレイに突入。
ていうか冷静に考えて、
大正時代の真っ暗な田舎道、小学生に「GPSもGoogleマップもない」「真っ暗な道」「何もかも自己責任」。
そりゃ泣くしかないだろ。
泣いて、走って、ようやく家に着いたものの、
母親は「おかえり」くらいのリアクションで特に感動の再会もなし。
冒険の代償は、ただの置いてけぼり感と、消えない孤独だけだった――
感想:いや、若い土工もうちょっとマシな別れ方しろよ
読みながら誰もが思うポイント。
いや、土工もうちょっとマシな別れ方しろよ
正直、『トロッコ』読んだ誰もが一度は思う。
「おい、そこまで一緒に来たなら、せめて家まで送ってやれよ」って。
でも、ここで現代の感覚だけでブチ切れるのはもったいない。
土工たち、決して悪意で良平を置いていったわけじゃない。
まず、あの時代。
田舎の現場で、見知らぬガキがウロウロしても「はい自己責任」の空気が当たり前。
子どもが勝手についてきて、勝手に飽きて、勝手に帰る。
それが“大人の世界の距離感”だった。
彼らにしてみれば、
「そろそろ飽きただろ」
「レール辿れば帰れるべ」
くらいの“ゆるい信頼”と“無頓着さ”が普通。
むしろ、わざわざ送り届ける大人なんて、現代のPTA的親切さ。
昔の土工たちは、「子どもを信用して任せる」=「適当に放っておく」くらいがデフォだった。
それでも――
少年・良平から見れば、世界から急に切り捨てられる恐怖。
小さな背中にのしかかる、「誰も自分を守ってくれない」という現実。
ここで泣くしかなかった良平の気持ちは、時代を超えてズシンと響く。
そして大人になった今、自分もどっかで誰かを置いてきぼりにしてる側だな…と感じることもある。
で、良平は実際どれくらい走ったの?【走行距離】
さて、ここで「細かすぎて伝わらない考察」を投入。
小学生男子が、夕暮れから夜にかけて、どれくらいの距離を泣きながら全力疾走できるのか。
…なんて誰も計算してないけど、こういうのこそ芥川読者の楽しみ方である。
まず、作中の描写を整理。
・良平がトロッコで運ばれたのは「村から少し離れた工事現場」
・暗くなり始めるまで、土工たちと行動
・「気がつけば夜」になり、泣きながら帰る
現代っ子なら「帰り道?グーグルマップで最短ルートやろ!」だが、
当時の良平にナビは一切ない。レールを辿れば帰れるがどれくらい家と離れているかもわからない。
さて、小学生男子(推定7~8歳)の平均走行速度は、
全力疾走で時速10~12km、ずっとこのペースを維持できるわけもないのでペースダウンと勾配も考慮して8km/h前後。
仮に30分泣きながら走ったとすれば、4km弱。
「ちょっと散歩」どころじゃない。
夕暮れの田舎道4km――
今の感覚でいえば「駅から家まで、迷いながら夜道を一人で走って帰る」レベルの冒険。
そりゃトラウマにもなるし、夢にも見る。
トロッコで来た道を辿るだけなので迷うことはないが、
暗闇+泣き顔+道に迷う恐怖で、体感時間と距離は何倍にも膨れ上がる。
良平が感じた“絶望の夕暮れ道”――
数字に直すとただの数キロだけど、心の距離は無限遠だ。
なぜ良平は土工を選ばなかったのか?社会的背景から考察【大正時代】
良平少年、あれだけ土工に憧れていたのに、
大人になったら選んだのは、校正係という地味職。
これ、芥川の皮肉と当時のリアルな社会背景、両方が透けて見える。
まず当時の土工。
今で言うガテン系、いわゆる肉体労働。
社会的地位も高くないし、給料だって安定しない。
日雇いで、仕事がなければ即アウト。
良平みたいな田舎の子が「なりたい」と思っても、
親も「いや、それだけはやめとけ」と全力で止める職種だったはず。
月収も非常に低いものだった。(日給:10~15銭、現在の価値に換算すると400〜1800円くらい)※「1銭=100分の1円」
じゃあ「校正係」は?
これ、当時のインテリ系サラリーマン。(当時の校正の平均月給: 50〜80円前後)
給与は現代の月収15万円~48万円程度。物価や比較対象によって前後するが、
「一般的なサラリーマンの月給」クラスだった。
世間的には「手堅い」「安定してる」「とりあえず食いっぱぐれない」
でも、夢もなければドラマもない。
ミスなく淡々と紙の誤字をチェックする、地味職の極み。
良平が冒険や刺激を捨ててまで選んだもの。
それは「安定」だった。
良平の選択、堅実
良平が大人になって土工を選ばなかった理由は単純。
・社会的信用度
・安定収入
・家族を養う責任
…この3点セット。
子どもの頃は現場のキラキラに憧れたけど、
いざ人生を選ぶ段になると「現実」にベットするしかなかった。
…って、こうやって数字にしてみると、余計に「人生の切なさ」際立つな。
良平、めっちゃ普通の人間やんって、逆にリアル。
良平の「安定と引き換えに失ったもの」考察
正直、ここからは焦げ団子の超個人的な視点になってしまうので見たい人だけ見てくれればいい。
・奥さんや子供の描写はほぼゼロ
・家庭の幸福アピールもなし
この時点で、心から望んだ人生って空気は皆無。
たぶん世間並みに家庭を持って、「ちゃんとした仕事」について、
自分の夢をどこかに置き去りにした。
安定した仕事を手に入れると、もう夢も追えない。
家族を養う責任=「自分の人生を、社会の型に流し込む」こと。
逃げ道もなければ、転職も今みたいに簡単じゃない。
やりたいことより、「やるべきこと」を優先し続ける日々。
その結果、
人生は、終わらないトンネルみたいになった。
たまに夢に見るのは、
あの時泣きながら帰った夕暮れでしか自由になれないからだ。
なぜこんなに後を引く話なのか?
物語の最後、大人になった良平はこう言う。
「あの夕暮れの帰り道を、今でも時々夢に見る」
――ここがヤバい。
あのときの恐怖も孤独も、単なる思い出じゃない。
結婚して、子どももいて、社会的にはちゃんと大人になったはずなのに、
「今ここにある人生」から、“あの時の無力さ”は消えていない。
よく考えたら、この短編――
『トロッコ』ってタイトルのくせに、本当に語るべきは「降りてから」の道。
乗ってる間は楽しい。でも、降ろされた瞬間から地獄が始まる。
泣きながら走った道――それこそが、人生の正体。
じゃあ今の俺たちにとって『トロッコ』って何だ?
・好奇心で飛び込んだ仕事
・なんとなく歩き始めた人生
・「誰かと一緒なら安心だろ」とついていったのに、途中で「はい自己責任ね」って放り出される
→ ぜんぶ、『トロッコ』の構造そのまんま。
大人になった今こそわかる。
「気づいたら、誰も自分の面倒なんて見てくれない」
それが、社会ってやつだ。
余談:土工にもらった“新聞紙に包んだ駄菓子”の正体をガチ考察
まったく本編とかかわりないが、ここでは良平が土工にもらった「新聞紙に包んだ駄菓子」の正体について考察していきたいと思う。
まず前提:大正時代の田舎・現場作業員が子供に渡す“駄菓子(お菓子)”とは何か?
駄菓子の流通・入手事情
大正時代は、駄菓子屋もあったが都市部中心。田舎では商店に簡素な甘味が並ぶ程度。
現場の土工が「家に帰る途中にわざわざ買う」というより、持ち寄りやもらい物の残り物が多い。
ありえる中身ランキング勝手にまとめてみた
黒砂糖(黒糖)
当時の定番エネルギー源。飴状に加工されてなくても、単なるかけらや塊をそのままかじるのが普通。
持ち歩きやすい・溶けにくい・腹持ち良い。
麦こがし(はったい粉)団子
はったい粉(焙煎した麦粉)+水や砂糖で固めて団子状にした、昔の“元祖プロテインバー”。
包んでも手が汚れにくい。
炒り豆(大豆・そら豆)
保存がきく。小袋や新聞紙に包んで携帯するのが定番。
干し芋・干し柿
地方だと、商店より自家製の甘味も多い。
飴玉(安物の水飴や黒飴)
飴自体は江戸時代から普及、ただし都市部ほど種類がない。割れた飴を包んで渡した説もありえる。
駄菓子せんべい(瓦せんべい/小麦粉の焼き菓子)
手づかみ可。新聞紙でくるむにちょうど良いサイズ。
結論、良平がもらった駄菓子は、ほぼ黒砂糖か、はったい粉団子or炒り豆系で決まり!
昭和のお菓子みたいなカラフルな駄菓子はまずない。
味も見た目も地味だけど、「田舎現場のリアル」が詰まった一品だったはず。
芥川龍之介『トロッコ』まとめ:この短編、深すぎる
結局、大人になっても「自分で走るしかない夜道」はどこまでいっても終わらない。
あの日の良平は泣いて走った。今の我々も、泣く暇もなく満員電車に詰め込まれる。
でも、新聞紙に包まれた駄菓子の甘さくらいは、たまに思い出してもいいかもしれない。
それが人生の現実ってやつだ。焦げ団子的には、な。
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