みなさんは、冨樫義博先生の異色SFギャグ作品『Level E』を知ってるだろうか?
『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』と、シリアス路線のバトル漫画で一世を風靡した冨樫が、ほぼギャグに全振りして描いたSF連作短編集──それが『Level E』である。
しかもこの作品、ただのドタバタコメディじゃない。
異星人がすでに地球に溶け込んで暮らしているという設定をベースに、人間社会の構造・情報操作・倫理観のズレなんかを、じわじわと皮肉たっぷりに描き出してくる。
……って聞くと、ちょっと難しそうに思えるかもしれないけど、心配は無用。
そのすべてを「宇宙一性格の悪い王子様」が台無しにしてくれるからである。
知性・美貌・権力をすべて備えた異星の王子がやってくる──というと、一瞬壮大な話が始まりそうに見えるが、全然違う。
やってくるのは性格の悪さで銀河を支配してるようなトリックスター系イケメンで、地球人の心をかき乱すことを、まるでゲームのように楽しんでいる。
そして本作は、そんなバカ王子を軸に展開されるオムニバス形式の物語。
1話ごとに違う登場人物、違う設定、違うジャンル感。
SFホラーになったかと思えば、ラブコメ風だったり、ヒーロー戦隊ものだったり、とにかく「次、何が起こるのかまったく読めない」のが最大の魅力だ。
焦げ団子SF好きなら見て欲しい名作!
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あらすじ:ギャグと皮肉が襲いかかる、怒涛の短編集
バカ王子・地球襲来編
高校進学を機に山形で一人暮らしを始めた筒井雪隆。ところが、引っ越したその日にすでに部屋で生活していた自称宇宙人の男がいた。しかもその男、なぜか堂々としていて話がやたら上手い。雪隆は追い出そうとするが、結局押し切られて同居することに。
やがてその正体が「ドグラ星の王子」だと判明し、護衛や研究機関、好戦的な宇宙人たちが入り乱れて大騒ぎに。
にもかかわらず、本人だけはまるで他人事のようにマイペース──これが後にバカ王子と呼ばれる男との最初の出会いだった。
食人鬼編(劇中劇)
林間学校中、同級生が喰われるのを目撃した悪ガキ4人組。次は自分たちの番かもしれないと恐れ、犯人探しを始める。
しかし、その途中でひとりが姿を消す。追い詰められた彼らが頼ったのは、つぶれかけの精神クリニック。
実はこの話、王子が描いた漫画(アニメでは携帯ゲーム)という劇中劇で、やたら完成度が高く、ブラックユーモアの効いた異色回になっている。
原色戦隊カラーレンジャー編
退屈したバカ王子の次なる遊びは、東京の小学生5人をヒーローに改造すること。学校帰りの子どもたちを宇宙船へ拉致し、強制的に「原色戦隊カラーレンジャー」を結成させる。最初は嫌がっていた彼らも、次第に抗えない状況に。
王子の悪ノリと無駄に凝った設定が炸裂する、冨樫らしいメタギャグ全開のエピソード。
マクバク族サキ王女・ムコ探し編
宇宙を放浪する女系種族・マクバク族が地球に接近。彼女たちは繁殖期になると異種族の雄と交配し、数万の子を残すが、その種族は数世代で絶滅してしまう。
そんな危険な種が地球を狙っていると知ったクラフトたちは、王女のムコ探しを阻止しようと同行する。
だが、王女はあっさり理想の相手を見つけ、しかも両想いに。
高校野球地区予選編
如月高校野球部はあと一勝で甲子園出場。だが勝ち進むにつれて部室の窓が割れたり、ポルターガイスト現象が頻発する。興奮と不安の入り混じる中、迎えた決勝戦の日。最大級の怪奇現象が発生。
たまたま近くを通りかかったディスクン星人・ラファティの報告で事件を知ったクラフトたちは、救出作戦に動き出す。
まさかのミステリー回。
原色戦隊カラーレンジャー・人魚編
ある企業の重役が、尾が二つに分かれた宇宙人ツインテールマーメイドを落札。
しかし嘘をついた罰として彼女の舌で刺し殺される。捕らわれたマーメイドは解放を懇願するが、密猟者たちは再び金儲けを企む。
一方、カラーレンジャーの一人・清水は父の転勤でアメリカに引っ越すことになり、仲間と喧嘩別れしてしまう。そんな彼の前に、傷ついたマーメイドが現れる──SFと友情が交差する感動編。
バカ王子・結婚編
しばらく姿を見せなかったバカ王子が、突然雪隆の部屋に戻ってくる。曰く「人に追われている」とのこと。追っ手は王子の弟モハンと、許嫁ルナ=ミ=マド・マグラ。
王位継承のために20歳までに結婚しなければならない制度を嫌がる王子と、なんとかそれを阻止したいクラフトの思惑が一致し、まさかの共闘が始まる。
珍しく目的が同じでも、結局最後はぐだぐだ。
バカ王子・ハネムーン編
時は流れ、王子は結局ルナと結婚し、国王に即位。娘カナも7歳になっていた。ようやく新王朝が落ち着いた頃、遅めの新婚旅行へ出発。
だがそこで革命商社クイーンツというテロ組織に誘拐されてしまう。
10年越しの友情と家族の絆が描かれる、シリーズの集大成的エピソード。
見どころ&感想:ギャグに振り切った冨樫ワールド、ここに極まれり
『Level E』って、冨樫先生が完全に好き勝手やってる感がすごい。
異星人モノの皮をかぶった、ほぼギャグ・一部ホラー・ところにより感動というジャンルごった煮系SF。
しかも、話ごとに主人公が変わる連作短編集になってるから、「この話めっちゃ好き!」ってやつと「これは…まあ冨樫だしな」ってなるやつの振れ幅がでかい。
でもそれも含めて面白いSF短編として成立してるのがすごいところ。



わりと本気で不気味な回もある。
推しエピソード:カラーレンジャー編の完成度がガチすぎる
団子的にいちばん好きなのは、やっぱ「原色戦隊カラーレンジャー」編。
最初は「え、小学生に戦隊ヒーローやらせる系?」って思うんだけど、中身は完全に少年の心くすぐる系の冒険ストーリー+冨樫ギャグ。
特にゲーム部分がめちゃくちゃ凝ってて、戦隊モノ×ゲーム×心理戦の組み合わせがクセになる。
レベル上げの概念がリアルすぎてゲーム好きにはたまらん展開だったわ。
あと、バカ王子が相変わらずの最低ムーブで無双してくるのがもう笑うしかない。
この話だけで何回も読み返せる完成度してる。
バカ王子=宇宙規模の迷惑系トリックスター
この作品のすべてのカギを握るのがバカ王子こと「ドグラ星第一王子」。
宇宙一頭が切れるのに、性格が最悪すぎる男。
本人にまったく悪気がないどころか、「楽しいからやってる」だけで人を困らせるタイプなのでタチが悪い。
でもこのトリックスター感が逆にクセになる。
人間社会や常識をひっかきまわしてくる感じが、社会風刺になってるのも地味にすごい。
異星人=異文化の象徴、だけど日常の延長
「地球には実は宇宙人がたくさん住んでいる」っていう前提の世界観なんだけど、
それがすごく普通に描かれてるのがまた怖い。
たとえば宇宙人研究機関とか、宇宙人専用の留学生とかが当たり前に存在してるのに、誰も疑問に思ってない。
この異物が日常に溶け込む感じ、妙なリアリティがある。
そして何より、異星人という異文化を受け入れながらも、「それぞれ勝手にやってる」っていうスタンスがものすごく今っぽい価値観を先取りしてる気がする。
総じて:異星人×地球×冨樫=自由すぎる実験場
派手なバトルもなければ、泣かせにくる演出もない。
でも確実に読み終えたあとに「なんだこれ面白かったな…」ってなる一冊。
ノリは軽いけど、よく見るとテーマがえぐい。
「異文化コミュニケーション」
「勝手に決められる人の運命」
「善意と悪意の境界線」
「子どもと大人の社会」
……そういうのが裏テーマとしてちゃんとある。
王子の結婚とラスト
ラストに、あのバカ王子が最終的に結婚するって、読みながら「え?」って声出たわ。
しかも普通に子どももできて王になってるし。
あんだけ結婚イヤだ、王位もいらん、って言ってたくせに最後はちゃっかり家庭持ってて、しかも娘とのシーンではちょっといい父親してるのがまたムカつくというか愛おしいというか…。



こういう「ぶっ飛んだやつが、最終的に妙に落ち着いてる」展開って、地味に効くよな。
永遠に変わらないようで、少しだけ変わった王子ってのが、『Level E』の余韻として最高だったと思う。
まとめ:異色のSFギャグ、されど心に残る名作
『Level E』は、冨樫義博がギャグに全振りした異色作でありながら、SFとしての完成度も、風刺としての視点も、めちゃくちゃ高い。
どの話も一見ふざけてるのに、最後には皮肉と感慨がズシッとくる。
特にあのバカ王子がちょっとだけ成長して終わるラストには、妙にしんみりした。
「冨樫って、こんな漫画も描けるんだ」
って毎回思わされる、隠れた名作。
古い漫画だけど、未読のSF好きには全力でおすすめできる1本です。
アニメ版はニコニコ動画で配信されてるから、気になった人はぜひ見てくれ!
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