若い頃みたいに好きだけで突っ走る恋はもうできない。
でも、誰かと生きたい気持ちはなくならない。
映画『平場の月』は、そんな大人の恋心をとても正面から描いた作品。
泣く人もいれば、静かに受け止める人もいる。
たぶん、観る人の人生のページ数で感じ方が変わるタイプの映画になっている。
- 作品名:『平場の月』
- 公開日:2025年11月14日(全国東宝系)
- 原作:平場の月(著:朝倉かすみ/光文社文庫)
- 監督:土井裕泰
- 主演:堺雅人(青砥健将役)・井川遥(須藤葉子役)
- 主題歌:いきどまり(星野源)
平場の月ネタバレなし感想|若さじゃなく「人生経験」が刺さる恋
主人公・青砥健将(堺雅人)は、離婚して地元へ戻り、印刷会社で淡々と働く日々。
ある日、中学時代の初恋相手・須藤葉子(井川遥)と35年ぶりに再会する。
一度はすれ違った人生でも、“もう恋はない” と決め込んだ年齢でも、人はまた誰かと惹かれ合ってしまう。
ただ、50代の恋には50代なりの現実と痛みがある。
そしてその痛みは、若い頃よりもずっと深い。
でも――誰かと生きたい気持ちは、不思議と無くならない。
映画『平場の月』は、そんな大人の恋心を静かに描いた作品。
平場の月|見どころ・考察(ネタバレあり)
平場の月の考察・感想を検証していきます。
焦げ団子ここからは少しネタバレも含むから注意してね!
綺麗じゃない二人だから成立する恋
青砥も葉子も、決して“好感度100点の主人公”じゃない。
青砥は、かつて浮気で誰かを切り捨てた。
家庭も壊した。潔白じゃない。
葉子は、暴力、略奪、依存…いろんな失敗の果てに、いま質素な生活をしている。
二人とも、「ちゃんと生きてきたのに、ちゃんと失敗してきた普通の人間」
だからこの映画は尊い恋の物語じゃない。
汚れも後悔も抱えたまま、それでも人生は続く。
その途中で、また誰かと出会ってしまう。
完璧じゃない二人だからこそ——救われる人が、きっとここにいる。
葉子の“言わない優しさ”は残酷な強さ
葉子は、弱っていく自分を見せたくなくて青砥を突き放す。
世話されても「ありがとう」の一言すら言えない。
でもそれは、冷たいわけじゃない。
もし感謝を言葉にしてしまったら——別れられなくなるから。
自分が先にいなくなる未来がわかっていて、それでも彼に寄りかかるのは、もっと残酷だ。
優しさを見せないことが、最後にできる優しさ。
日本の恋愛映画はよく自己犠牲を描くけれど、この映画はそこに一滴だけリアルを混ぜてくる。



まあ個人的には一言お礼くらい言えよって感じするけどね!?
星野源|主題歌『いきどまり』が暴く本音
星野源「いきどまり」は、この映画のもうひとつの結末になっている。
映画の葉子は、“言わない優しさ” を選んだ。
- 健将には幸せでいてほしい
- 自分と一緒にいたら未来を奪う
- だから理由を隠して身を引く
表向きは大人の判断。
でも、内側ではちゃんと未練が燃えてる。
曲が語るのは、「戻れない過去への未練」と「間違った優しさへの後悔」。
全部、葉子の心の声だ。
映画が抑え込んだ感情を、主題歌が全部バレさせている。
だから『平場の月』は、曲を聴いた瞬間、物語が完成する映画。
恋の話というより、言えなかった本音の話。


居酒屋が証言する「生活の匂い」
二人が距離を縮めていくのは、気取らない居酒屋。
注文を聞く店主は、恋を邪魔もしないし、応援もしない。
ただ、見ている。
どこにもいないようで、どこにでもいる「見届け役」。
こういう脇役がいるだけで、フィクションだった恋が、急に現実になる。
結局いちばん“生活の匂い”を出しているのは、主人公たちではなく、彼らが通うカウンターの方だったりする。
その空気が、この映画を恋愛ファンタジーじゃなく、人生の途中で再会した二人の物語にしている。
平場の月|キャストの演技について(堺雅人×井川遥)
堺雅人は、いつもの爽やかでも理知的でもなく、 “人生の重さを抱えた普通の男” を丁寧に演じている。
井川遥も、綺麗さの奥に「諦め」と「未練」の影を宿していて、無言の芝居が刺さる。
平場の月|映画と原作の違い
原作はもっと静かで、淡々とした情景描写が多い。
映画は、青砥と葉子の距離感を “目線と沈黙” で表現していて、恋の温度がわかりやすい。
大筋は同じでも、表情を見せる分だけ、映画の方が感情が近くにある。
平場の月まとめ|若くなくても、恋をしていい
『平場の月』は、自分のことを好きになれない夜があって、誰かを救う資格なんてないと思ってしまう。
それでも――誰かと並んで歩きたい。
そんな人間の矛盾がちゃんと描かれている。
派手な演出もないし、キラキラ恋愛でもない。
距離の縮まり方も、会話のぶつかり方も、「大人のリアル」に寄っている。
だからこそ――刺さる人には、刺さる。
実際、両隣の客はポップコーンをバクバク食っていたのに後半はズビズビ泣き崩れていた。
若い2人の恋ではなく、“生きてきた重さ”ごと愛する恋。
自分の人生に後悔も矛盾も抱えながら、それでも誰かと生きたいと思うこと。
これは、「綺麗じゃない人」が主役の恋愛映画。
その不完全さが、たぶんいちばん美しい。


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