1937年、アメリカ陸軍はハーシー社に対して、まさかの指示を出した。
「兵士がおやつに食べないように、まずいチョコを作ってほしい。」
なぜよりにもよってチョコレート会社に「美味しくするな」と言ったのか?
そしてこの奇妙な命令から生まれた軍用チョコレートは、後に 「ローガンバー」 と呼ばれ、史上最もまずいチョコとして語り継がれることになる。
しかも驚くべきことに、このチョコは現在、未開封のまま現存しているのだ。
- なぜアメリカ陸軍が「まずいチョコ」を求めたのか
- ハーシー社が実際に作った軍用チョコ「Dレーション(ローガンバー)」の正体
- 兵士たちに拒絶された理由
- そして今でも未開封が残っている衝撃の理由
では、なぜアメリカ陸軍は美味しさを封じたチョコを必要としたのか?
焦げ団子その背景から解説していこうと思う。


背景:なぜアメリカ軍は“まずいチョコレート”をハーシーに要求したのか?


まず大前提として、1930年代のアメリカ陸軍が必要としていたのは「兵士が絶対に携帯すべき緊急時のカロリー源」 だった。
戦場では、補給が途切れることも珍しくない。
そんな状況で兵士が確実にエネルギーを摂れるよう、溶けず・腐らず・高カロリー の食品が求められた。



そこで白羽の矢が立ったのが、チョコレートだったんだ。
ただし――ここで問題が起きる。
普通のチョコを配ったら、兵士が間食として真っ先に食べてしまう。
「非常時用どこ行った???」となる未来が目に見えていたわけだ。
さらに当時の作戦環境は熱帯・砂漠など高温地帯。
一般的なチョコレートは30℃前後で溶けるため、持っているだけで茶色い液体になるという致命的欠陥があった。
そこで軍がハーシー社に突きつけた条件がこちら。
- 49℃でも溶けるな
- 1本600kcal以上
- 甘くするな(兵士がおやつに食べてしまうから)
要するに、
「絶対溶けず、カロリーだけ高く、そして“美味しいと困る”。」
という矛盾まみれのミッションである。
こうして、世界で唯一、美味しさを排除されたチョコレートの開発が始まった。
ローガン大尉とは?ハーシー「ローガンバー」誕生の裏側


1937年、アメリカ陸軍需品科(Quartermaster Corps)のPaul P. Logan(ポール・P・ローガン)大尉が、ハーシー社に直接チョコレート開発を依頼した。
ローガン大尉は、軍需物資のスペシャリスト。
公式文書には、彼が求めたチョコの条件がはっきり記されている。
- 高カロリーであること(600kcal級)
- 熱帯でも溶けないこと(49℃耐性)
- あくまで非常用であり、嗜好品ではないこと
ローガン大尉の役目は、「軍が必要とする性能を満たすチョコレート」を作ることであり、その結果として美味しさは完全に優先順位から外れた。
こうして、軍とハーシーが共同で生み出したのが後に 「ローガンバー」 と呼ばれる世界で唯一、“食べたくないこと”を前提に作られたチョコレート である。
Dレーション(ローガンバー)の味と評判まとめ:兵士が地獄のチョコと呼んだ理由


さて——ローガン大尉の条件どおりに完成したDレーション(通称ローガンバー)。
問題は「味」だ。
兵士の証言を総合すると、だいたいこんな感じになる。
- 「硬すぎてナイフで削らないと食べられない」
- 「味がない。匂いもない。食べ物じゃない」
- 「口の中の水分を全部もっていかれる」
- 「チョコというより、燃料ブロック」
……と、ほぼ全員が地獄の食レポを残している。
なぜこんなことになったのか?
理由は単純で、保存性・高温耐性・高カロリーを優先しすぎて食品としての幸福を完全に捨てた結果 である。
カカオバターの代わりに硬化油を使い、砂糖を極限まで抑え、ココアパウダーの量だけ増やした、「理論上は食べ物」「法的にはチョコレート」という存在。
しかも、乾燥して固まりすぎて兵士はナイフで削って食べるか、Dレーションは硬く噛み切れないため、兵士の間では 砕いて湯に溶かし、飲み物代わりにするといった工夫も見られた。
当然こうなる。
「非常用だからまずく作ったのに、最終的に非常時でも誰も食べなくなる」



もう軍の意図が天地逆転している。
その結果、Dレーションは史上最も評判の悪い軍用食のひとつとして名を刻むことになった。
Dレーション(ローガンバー)はどう作られていたのか?驚きの製造工程を解説
ではそんなローガンバーはどのように作られていたのか?
ローガンバーことDレーションは、チョコレートと呼ばれながらも、その実態はほとんど「軍用携行ブロック」だった。
当時のハーシー社の技術報告と、米陸軍需品科(Quartermaster Corps)の記録から、その製造プロセスを追うと、なぜあんな味になったのか が自然と見えてくる。
原料の段階で別物。カカオバター不使用の溶けない配合とは?
一般的なチョコが「カカオバター・砂糖・ミルク」で作られるのに対し、Dレーションの素材は徹底して実用性に寄っている。
カカオパウダー、脱脂粉乳、オートミール粉、そして植物性の硬化油。
砂糖はほとんど入らない。
チョコレートの命とも言える カカオバターは完全に不使用。
つまり、最初から「溶けない・栄養がある・でも美味しくない」 方向へまっしぐら。



この時点で、口どけの概念は死亡している。
混合工程もあえて雑。美味しくさせないための加工とは?
普通のチョコは、滑らかな舌触りを生むために長時間コンチェ(練り込み)という工程を行う。
だがDレーションは、
- 練ると美味しくなる
- 美味しくなると兵士が非常用として取っておかない
- 軍の目的に反する
という理由で、「最低限混ざればいい」レベルで、即・成形工程へ。



食品というより、完全に装備品の扱い。
成形・冷却でレンガ化。噛めない固さはこうして生まれた
軍が指定したのは 4オンス(約113g)のブロック形状。
これを急冷して固めるため、内部までガッチガチに結晶化する。
普通のチョコが「ゆっくり冷やして口どけを良くする」のとは真逆で、
噛めないほど硬くてOK。むしろ硬い方が目的に適う。
という基準で作られた。
兵士たちが「ナイフで削って粉にして飲み込んだ」と言うのも、この工程を知れば納得しかない。
包装も軍仕様。湿気・虫・匂い対策で過剰防御パッケージに
湿気、虫、匂い、そして高温。
どれにも負けないように、ワックス紙とアルミラミネートを重ねた頑丈な包装が使われた。
その固さは、「開封するところからもう戦闘が始まってる」



味の前にまずパッケージと殴り合う食べ物、後にも先にもこれだけだ。
ローガンバーは現存する?未開封Dレーションがオークションに登場する理由


そして――ここが一番おもしろいところだ。
あの悪名高きローガンバーは、実は 現存する。
そう、ただの歴史資料ではなくて、未開封のまま残っている個体が実在する。
アメリカの軍事オークションやeBayでは、ときどき「unopened D-Ration」として姿を見せる。
もちろんプレミア価格だし、中身はもはや化石。(仮に開けても食べるという発想はない。博物館級の遺物。)
さらに、米軍関係のミリタリーミュージアムでは完全未開封のローガンバーが展示専用(For display only)として保管されている。



パッケージは100年前の紙とは思えないほどしっかり残っているね。
まとめ:戦時中に生まれたまずいチョコは、なぜ今も語られるのか
第二次大戦のハーシーDレーション(ローガンバー)は、「溶けない・高カロリー・甘くするな」という軍の命令から生まれた、美味しさを完全に犠牲にしたチョコだった。
- 兵士の非常食として必要だった性能
- ハーシーが軍に協力して生まれた特殊な配合
- 戦時下だからこそ生まれた味覚の価値観の違い
こうした背景が積み重なり、ローガンバーは、現代の私たちが知っているチョコとはまったく別物 になった。



どれだけまずいのか一度食べてみたいな…。




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