芥川龍之介短編小説『あばばばば』――母性に置いてけぼりを食らった男の哀愁【感想と考察】

「あばばばばばば、ばあ!」

母性の表れを見てると、自分だけ季節が止まってしまった感覚になる。
何でもない店先の風景が、突然世界の中心がこっちから遠ざかる瞬間に変わる。
声もかけられない。ただ赤ん坊をあやす声が、男と彼女の距離を永遠に埋めてしまった。


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あばばばば/芥川 竜之介 (著)

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目次

あらすじ:初夏の雑貨屋と、ういういしい女

主人公・保吉。
彼は店で働く、不器用で恥ずかしがり屋の女と出会う。

正直、どこにでもいるような、平凡だけど“新鮮な生き物”――

そんな彼女を、保吉はついからかってしまう。
それが「ささやかな楽しみ」であり、
言い換えれば、“日常にある青春ごっこ”みたいなものだ。

突然の消失、そして「あばばばば」

季節はめぐり、女は突然店から姿を消す。
保吉は気にしつつも、「ああ、そういうもんか」と流していた。

だが、二月末。店の前をふと通りかかると――
女は人目も気にせず、
「あばばばばばば、ばあ!」と赤ん坊をあやしている。

“ういういしさ”の死、そして母性という変身

このシーン、笑い話じゃない。
むしろ、保吉の中で「少女」が完全に“母”へと変貌する瞬間だ。

かつての恥じらいも不器用さも消え、赤子にだけ全力で向き合う女。
保吉と目が合っても、もはや意に介さない。

「あばばばば」は、女が母親として新しい次元にジャンプした合図だ。

保吉の心情――祝福、そして取り残される哀しみ

保吉は、彼女の「変化」を心の中で祝福する。

――でも、

同時に、
もう“からかう楽しみ”も、“ういういしさ”も失われてしまったという喪失感が胸をえぐる。
俺の知っていたあの女の子は、もういない。

彼女は、母として別の世界に行ってしまった
祝福したい気持ちと、寂しさの混ざったやるせなさ。

「母親になると女は性格が変わる」――そして男は、変われずに残る

母親になると、女は一瞬で変わる。
あんなに恥ずかしがり屋で、ちょっと不器用で、
こっちの顔色を気にしていたあの子が、
赤ん坊を前にした瞬間、
世界の全部がこの子だけ」みたいな顔になっている。

あんなに気にしていた他人の目も、
男の視線も、世間のルールも、
新しく生まれた小さな命の前では一発で全部どこかに吹き飛んでしまう。
母親ってそういうものなんだと、
男はその時になってようやく知る。

この話の怖さは、
「人は変わる」ことの祝福と残酷さを一瞬で見せるところ。

一方、男(保吉)は、
“からかう側”の自分のまま取り残される。

あばばばば――

赤子は笑い、女は母となり、
俺だけが、季節の外に置いてかれる。

「人の成長=みんな幸せ」とは限らない


もしかしたら今、この記事を読んでる君にも、
誰かに置いてけぼりを食らった記憶が疼いてるかもしれない。


「人の成長は、みんなの幸せ」とは限らない。
世間はきれいごとを言うけど、本当は誰かが大きく変わるたび、必ず置いていかれる側がいる

あの日の自分は、ただ何でもない日常に満足してた。
ふざけて、時々からかったりして、それだけで「ずっとこのまま」が続くと信じていた。

でも、気づけば相手だけが別の世界に進んでいた。
急に景色が変わって、こっちはまだ昨日のことのような気持ちのままなのに、
相手はもう別の役割をまとって、振り返りもせずに、前に進んでしまう

笑い合っていたはずの「青春ごっこ」も一瞬で終わる。
思い出の中にしか残らない、その儚さの残酷さに、胸がえぐられる。

祝福したい。
でも、どうしようもなく寂しい。
相手の幸せを願ってるのに、同時に「自分だけが置き去りにされた」と思ってしまう。

それでも結局、本人を目の前にしたらおめでとうの一言でごまかすしかない。
でも心のどこかでは、自分が相手の幸福の外にいるというその寂しさを引きずったまま、
今日も世界の片隅を歩いている。

芥川龍之介『あばばばば』、焦げ団子的あとがき

いや、ほんと――

「人は変わる」ってキレイごとだけじゃなくて、
誰かの成長や変化が、時には置いてけぼりの寂しさになるんだよな。

それでも「祝福するしかない」って気持ちが、この小説をただのほのぼの話じゃなく、
心にチクっと刺さる人生の切れ端にしてる。

成長や幸せが、誰かにとっては“喪失”になる――

それでも世界は動き続けて、
置いてけぼりを食らった人間も、
いつか自分の新しい季節を迎えるために歩き出す。

だから今日も、とりあえず前を向いてみる。

団子もいつか、
「あばばばば」って微笑みかける側に回る日が来るんだろうか――

団子もこれから誰かを無意識に置いていく瞬間が来るのかもしれない。
その時この物語の意味がもっと身に染みるんだろうな。


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あばばばば/芥川 竜之介 (著)

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■ちなみに自分自身、この「あばばばば」と同じ状況をガチで体験して、
読んだ後、予想以上にダメージ負ってる。
今回はふざける気すら起きなかった。

あの置いてけぼり感、フィクションより現実の方がエグいって話を
別記事にまとめてるので胸えぐられたい人だけどうぞ。↓


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