大学生活といえば、キラキラ恋愛や眩しい友情、楽しいバイトといったあのふわっとした大学イメージを想像する人が多いかもしれない。
だが、絹田村子さんによる少女漫画『数字であそぼ』──『月刊フラワーズ』(小学館)で2018年から連載中 のこの作品は、そんな幻想を一瞬で吹き飛ばしてくる。
舞台は、国立大学の理学部。吉田大学(京都大学モデル)の数学科という、よりによって理系の中でも最も地獄に近い場所だ。
大学生活の華やかさとは真逆の、泥と汗と挫折の匂いが漂う本当の理学部がここにはある。
それでも、なぜか読んでいると笑ってしまう。
少女漫画や恋愛ものが苦手な男性でもすっと入れる世界観で、数学トリビアも散りばめられているため、「大学の裏側をのぞき見している」ようなワクワクがある。
『数字であそぼ』は、数学を軸にした人間たちの混沌とした日常を、リアルさと優しさを同時に持った視点で描く、理系青春コメディの決定版といっていい。
焦げ団子これからこの記事では、そんな『数字であそぼ』の魅力を
団子的な目線でじっくり紹介していく。
『数字であそぼ』あらすじ|留年2回の天才・横辺の挫折と再出発
物語の主人公・横辺建己は、親譲りの映像記憶を持つ神童だった。
見たものを丸ごと覚えられるその才能は、周囲をどよめかせ、本人も「自分は天才なんだ」とどこか信じて疑わなかった。
そしてそのまま京都の名門、吉田大学理学部(京大モデル)に現役合格。
未来はノーベル賞、なんて言葉も冗談ではなく聞こえていた。
──が、大学初日の2限目。
数学の講義に出た瞬間、人生がひっくり返る。
黒板に書かれていく記号の連続。意味不明の論理。
助けを求めて隣の学生に声をかけても、返ってきたのは「え?分かりやすい方じゃない?」の一言。
その瞬間、横辺は初めての挫折を味わう。
そしてその足で下宿に帰り、布団をかぶり、気づけば 2年間の引きこもりと留年 が始まっていた。
三年目の春。
大学から届いた手紙に促され、イヤイヤ参加した「留年生面談」で、一人の数学教授にこう言われる。
横辺くん、まずは友達を作りなさい。
そこで偶然出会ったのが、同じく二年留年していた北方創介。
麻雀廃人ではあるが、明るくて面倒見がよく、横辺の背中を軽く押してくれる“良い意味で変な男”。
この出会いをきっかけに横辺は、再び大学に通い始める。
だが、その先に待っていたのは、高校までの計算できれば勝ちの数学ではなく、証明と抽象概念が支配する大学の数学という巨大な壁。
登校するたびに新しい意味不明が増え、授業のたびにちょっとずつ心が削れていく。
そんな混沌の中で出会うのが、
- 猫のように気まぐれな天才・猫田賢
- 鉄のメンタルを持つ夏目まふゆ
- 闇も才能も抱えている平坂世見子
…といった、クセの塊みたいな学生たち。
彼らに振り回されながら、横辺は数学と自分に向き合い何度も折れそうになりながら、少しずつ、ほんの少しずつだけ前に進んでいく。
『数字であそぼ』は、挫折からの再出発と、数学科という閉じた世界で生まれるリアルな大学生活と友情の物語だ。
『数字であそぼ』の魅力|理系大学の日常がリアルで刺さる



まだこの作品を読んだことがない人のために、ここでは『数字であそぼ』の魅力をネタバレなしで紹介していこうと思います!
① 数学トリビアが読みやすい&知識が身につく
作者の絹田村子さんはバリバリ文系らしいけど、実際に京大数学科の人たちを取材して描いているため、数学科特有の空気がいちいちリアル。
しかも本作、毎話に数学ネタや小さなトリビアが仕込まれている。
理系は「あるある〜!」とニヤけるし、文系でもクイズ的に楽しめる難易度になっているから、どの層でも読める絶妙なバランス。
数学ネタが熱いのは、横辺の「記憶力だけで無双してきた人生」と、大学数学の理解しないと一歩も進めない世界が正面衝突するからなんだよ。
高校数学は、極端にいえば覚えれば解ける。だから横辺みたいなタイプは王様になれる。
でも大学に入ると突然、証明・概念・抽象地獄に変わる。
ここで落ちる学生が現実でもめちゃくちゃ多い。
横辺が初回授業で即詰むのはギャグじゃなくて、数学ガチ勢が「あるある過ぎて笑えねえ…」ってなるやつ。
この努力の種類が変わった瞬間に一気に落ちる構造を、軽いノリで描くからこそ、大学数学経験者ほど刺さる。
② 人間関係のリアルさ(理系独特の空気感)
まず驚くのが、学生たちの温度感のリアルさだ。
団子も半分理系寄りの大学にいたから分かるけど、理系の学生って本当にああいうテンションなんだよ。
文系や体育会系みたいな「彼女ほしい!サークル最高!」みたいなギラギラ感がほとんどなくて、淡々としている。静か。妙に落ち着いてる。
そして恋愛が物語の軸にほとんど絡んでこない。
青春漫画といえば恋愛を入れがちなのに、『数字であそぼ』はその気配がほぼゼロ。
そのおかげで、大学という閉じた世界の現実の空気が逆に濃く描かれている。



ここまでリアルな大学の人間関係を描いた漫画って、実はめったにない。
③ 京都舞台の描写がエモい
舞台が京都で、描写もめちゃくちゃ細かい。
団子は大学時代を京都で過ごしていたので、四条、烏丸、祇園祭、京大周辺……
そのへんの地名や街並みが出てくるだけで懐かしすぎて泣けてくる。
「分かる……この空気、あの頃の大学生活そのまんま……」って気持ちになる読者、たぶんいる。
京都を知ってる人なら、物語の背景じゃなくて 自分の青春の続きを見ているような感覚になる。
④ キャラのクセと距離感が絶妙に心地いい
北方を中心に、横辺が出会う仲間たちはクセが強いけど、誰も悪意がなくて、男女混合なのに変な恋愛ムードも一切ない。
ただただ、お互いを助け合い、単位を取り、合宿に行き、ちょっと息抜きに京都を散歩する。
そんな日常の積み重ねが本当に眩しい。
大人になると、「こういう友人関係ってなかなか作れないよな……」としみじみするほど、純粋で健全で居心地がいい。
偏差値が高いせいか、キャラの人格の大人さも地味にポイントで、読んでいてストレスがまったくない。



団子的には、
「こんな仲間が大学時代にいたら人生変わってたかもしれん」
と思うくらい羨ましい世界。
総評|“大学の息苦しさと優しさ”を両方描く稀有な作品
『数字であそぼ』を読んでいて強く感じるのは、「この世界、正直ちょっと羨ましい」 という気持ちだ。
数学科という閉じた世界で、皆が思い思いに迷って、つまずいて、でもどこかで助け合っている。
恋愛の駆け引きも、SNSの疲労感も、普通の大学生活っぽさすらほとんどないのに、人間関係は不思議なくらい穏やかで優しい。
大人になってからこういう関係を築くのは、多分もう難しい。
利害も、距離感も、価値観の違いも、生活の事情も全部入ってしまうから。
でもこの漫画の世界では、ただ「仲間」でいられる。
弱さを見せても切り捨てられないし、失敗しても横で笑ってくれる誰かがいる。
横辺の不器用さや、北方の明るさ、猫田や夏目や平坂たちのクセだらけの個性が全部混じり合って、“大学の1ページ”が美しく見える瞬間がある。
数学科という地味でしんどい場所を描いているのに、ページを閉じる頃には「この空気に混ざってみたかったな」と思わせる。



それが『数字であそぼ』の一番の魔法で、そして、多分団子がこの作品を好きになった理由でもある。
数字であそぼ こんな人におすすめ|まとめ
『数字であそぼ』は、ただの大学漫画でも、ただの数学漫画でもない。
理系の泥臭さと、青春のあたたかさがほどよく混ざった、ちょっと変わった“京都×数学青春コメディ”だ。
では、この作品はどんな人に刺さるのか。
まず、シュール系のギャグが好きな人には相性抜群だ。
テンションの低さ・微妙な空気感・突然の数学ネタ……全部が絶妙にズレていて、そのズレが面白い。
そして、ワンパターンな少女漫画に飽きた人にも向いている。
恋愛が主軸ではないので、「誰が誰を好きか」で物語が動くことが一切ない。
そのぶん学生同士の距離感が自然で、読みやすい。
さらに、恋愛漫画が苦手な男性でも読みやすい。
登場人物は男女混合だが、恋愛要素が無理に入らない。
理系の空気そのままで進むため、ある種の清潔感すらある作品だ。
もちろん、大学に挫折したことがある人や数学で死んだ経験がある人はどこかで絶対に共感する。
知的だけど重すぎず、ユーモアがあるけど冷めきっていない。



そんなバランスの取れた作品なので、新しい漫画を探している人なら一度手に取って損はないと思うぞ!
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